損傷限界と安全限界

損傷限界と安全限界
出典:伝統的な軸組構法を主体とした木造住宅・建築物の耐震性能評価・耐震補強マニュアル(第3版)
限界耐力計算では建物の耐震性能の目標値として損傷限界と安全限界があります。JSCA関西が発行している限界耐力計算のマニュアルでは損傷限界は稀に発生する地震(震度5強程度)に対して層間変形角が1/120以下となること、安全限界は極めて稀に発生する地震(震度6強程度)に対して層間変形角が1/30以下となることとしています。今の住宅のほとんどが耐力面材や筋かいを使って耐震性能を確保していますが、それらの構法は変形性能が小さいため層間変形角が1/30を超えると倒壊に至ります。

一方で土壁や貫、差鴨居などで構成される伝統構法の建物は変形性能が大きいため条件が合えば安全限界を1/15以下とすることも可能とされています。ただこの変形性能が大きいということはそれだけ建物が傾くということで、構造階高が4mであれば一番上の部分で26cm近く動くことになります。そうなると土壁は落ちてボロボロになっているはずですが、それでも基準法はクリアしているとなります。このことは設計者としては当たり前のこととして頭に入っていますが、一般の方からすれば構造計算をして安全が確かめられているのに家がほとんど壊れてしまっているという印象になるのではないでしょうか。

安全限界というのは人命を守るための基準で、それは建物がボロボロであっても倒壊しなければOKという基準です。住民の方はその後も生活をしていかなければならないし、昨日も触れたように地震動は基準法の想定を超えることがしばしばあると考えれば安全限界の目標値は1/30以下とすることが大切だと考えています。