出典:伝統的な軸組構法を主体とした木造住宅・建築物の耐震性能評価・耐震補強マニュアル(第3版)
限界耐力計算を行えば住宅規模の木造で必ず守らなければならない「仕様規定」によらずに設計をすることが可能です。仕様規定は守らなければならない具体的な材料や寸法等が法律によって定められています。それはある意味設計をやりやすくしてくれていますが、設計の自由度は少なくなります。一方限界耐力計算は「性能規定」となるため、求められる数値(加速度応答スペクトル等)以外の仕様は自由に決められることになります。それらを取りまとめて一つの設計マニュアルとして作られているのがJSCA関西が発行している「伝統的な軸組構法を主体とした木造住宅・建築物の耐震性能評価・耐震補強マニュアル(第3版)」です。
そのマニュアルの中では限界耐力計算が成立するための前提条件というものがいくつか取り上げられています。昨日紹介した「柱脚が滑らない」ことというのもその一つですが、今回取り上げるのは変形モードです。限界耐力計算では建物に地震力が加わった時に上図左のように軸組が平行四辺形に変形することを想定しています。上図右のような変形は想定していないためこのような変形が発生しないかどうかの検討が必要になります。特に柱脚を基礎に固定しない石場建ての建物では右図の「柱脚の浮き上がり」に気を付ける必要があります。古民家の改修で構造用合板を用いて耐震補強をする例をたまに目にしますが、構造用合板は建物をがっちりと固めてしまうため基礎を設けて緊結しない場合柱脚の浮き上がりが発生する恐れがあります。柱脚が浮き上がる場合はせっかく設けた耐力壁もその力を発揮することができなくなります。補強設計ではこうした点にも十分注意しなければなりません。