改 修 計 画
古民家の時間を受け継ぐ
この古民家は大正時代に建てられたもので、まだ築100年程しか経っていません。江戸時代から残る古民家などは築200年や300年のものもあります。私たちが今後この古民家と過ごせる時間は半世紀ほどです。それでもまだ150年程で、私たちがしっかり管理して維持保全していけばその先も十分に活躍してくれます。今回再生することで私たちが居なくなった後もこの古民家を受け継いでもらえるような魅力を作りたいと考えています。


自然と暮らす快適な住まい
私たちは建物を使う人が心を開放して安心して時を過ごせる空間を作ることを心掛けています。そうした空間を作るうえで大切なことは「自然を取り入れること」、そして「人にとって快適な住環境を作ること」です。木漏れ日や新緑、雄大な山並みなど、自然は美しく心を癒してくれるものですが常に心地よいものではなく、寒さや暑さなど人にとって厳しい面も持っています。建築がその厳しさを和らげ、自然の美しさや快適さを取り込むものでありたいと思っています。


コンセプトをアイデアへ
私たちの限られた予算で広い屋敷全てを完全に再生することは出来ません。コンセプトをもとに予算の範囲で今回できること・やななければならないことを整理しました。
・建物の歪みを直し、屋根を葺き替える
古民家を次の世代に受け継ぐにあたって必須なのは建物の歪みと屋根をしっかりと直すことです。この2点ができなければこの古民家の寿命は一気に短くなってしまいます。構造的に不要かつ雨仕舞の悪い部分を撤去して建物をジャッキアップして歪みを直し、新しい屋根に葺き替えます。

・古い躯体に寄り添うように補強をする
構造的に弱い部分を補強する必要がありますが、合板や金物を使って強引に補強するのではなく、できるだけ自然なかたちでもともとの躯体と違和感なく寄り添うように補強していきます。

・放置された屋敷林の再編
放置された屋敷林は周辺環境へも悪影響があるので今までの鬱蒼とした暗い森を一度伐採して、木漏れ日が差し込む雑木林の屋敷林へと再編します。
・美しい風景を取り込む
敷地西側には神戸原扇状地が広がり、その先には美しい山並みが見えます。日々の生活の中で南側の日照を受けるよりもこの景色を眺めながら暮らすことを優先したいと考えました。

・大きい家の中の小さな家
80坪もある古民家を全て人にとって快適な住環境にするには新築以上の予算が必要になってしまいます。今回は大きな家の中に断熱の施された小さな家(主な居住スペース)を作ることで予算と快適さの両立を図ります。

・自然素材の家
普段住宅の工事などで使われている合板などの新建材は少ないながらもシックハウスへの影響があります。建材もなるべく自然素材を使って体への負担が少ない住まいとします。

・火のある暮らし
昔の家には囲炉裏やかまどがあり火とともに生活をしていました。その目的は暖を取ることや煮炊きをするためではありますが、人は本能的に火を見ると癒されると思います。今回はそんな火のある暮らしを現代的に取り入れていきます。






配置計画
改修前配置図
建物の一部を解体
再生計画にあたって不要な部分を解体します。上雪隠、台所部分、浴室棟です。上雪隠と台所部分はいずれも構造と雨仕舞が複雑になってしまうので解体します。浴室棟は物置小屋として使うことも考えましたが、やはり維持管理する手間が増えてしまうので撤去します。

他の附属屋
敷地内には他にも附属屋が2棟あります。東側の附属屋は少し大きい2階建てで現在は物置として使っていますが将来的には木工作業所、あるいは民泊棟などに改修したいと考えています。西側には平屋の小さな附属屋があります。現在は傷みが激しく全く使っていませんが、電気も水も無い火だけがある原初的な暮らしができる小屋など夢を膨らませています。




屋敷林を一部伐採
敷地北側にはスギなどの大きな木があります。落ち葉や日影など近隣への影響も考え、今回伐採することにしました。この土地で60年以上成長してきた樹木をただ薪にしてしまうのはもったいないので、製材して改修の際の建材として使います。

既存の植栽・実生を選別して移植
アプローチ部分にあるドウダンツツジは直線状に植えられていて私たちが考える「爽やかな雑木林の庭」のイメージには合わないので、適宜必要な場所に移植していきます。
長年空き家だったため敷地内には実生の木々が何本も生えています。完成の庭をイメージして必要な木は刈らずに残し、ある程度大きくなったところで移植します。
平面計画
改修前平面図
   
   
改修後平面図
西側に居住スペース
綺麗な風景を眺めながら生活ができるよう、くつろげる空間は西側に配置しました。既存の土壁はそのままに、もともとあった開口部の位置を活かしながらプランを考えています。浴室は普段シャワーで済ませ、ゆっくりしたい時に使うので非断熱エリアの部分に配置して半屋外の露天風呂のような空間をイメージしました。

生活動線
くつろぐ空間と緩衝空間の間に通路を通してこじんまりとした空間の中にも視線が抜けるようにして息が詰まらないようにしています。また、玄関とは別に勝手口を設けてこの通路とつなぐことで日常の生活動線が完結するようにしました。こうすることで来客用の玄関には一切生活感が現れなくなり、設計事務所としての顔を作ることができます。
緩衝空間
断熱エリアと非断熱エリアが大きく接している3尺の空間は収納や便所、洗面等を配置しています。居住空間からは多量の湿気が出るので非断熱エリアとの境目で内部結露を起こしやすくなります。そこで極端な温度変化が起きないよう断熱エリアと非断熱エリアの境にこのような緩衝空間を設けることにしました。

古民家の雰囲気を残し、火を楽しむ場所をつくる
居住スペースを西側にまとめ、それ以外の部分には現代的なものを見せず古民家の雰囲気を残します。その古民家の雰囲気が残る中心に火を楽しむ場所を作り、来客をもてなしたいと考えました。15畳の客間と12畳の下座敷を合わせれば27畳の大きな団欒の場所になります。





断面計画
改修後断面図
大きな家の中の小さな家
「大きな家の中の小さな家」という考え方が最もよく表れているのがこの断面計画です。オモテの庭側は古民家の雰囲気を残し、西側の景色が良く見えるウラの庭側に小さな家を配置しました。小さな家はこじんまりとした空間になるので、大きな家の部分では吹抜を計画して開放的な空間となるようメリハリをつけています。また、西側はこの建物の中で唯一下屋が無い部分でもあるので、新しい柱がたくさん入る小さな家が構造的な補強にもなります。このようにまとまって断熱エリアを作ることで施工もしやすく、材料費も抑えることができます。

構造について
この古民家は石場建ての伝統構法で建てられています。そのため建築基準法のようなしっかりとした基礎を作り、合板などで剛性を高める耐震化は不向きです。今回はこうした伝統建築にも対応した限界耐力計算という方法を用いて建物の安全性を確認しました。結果的に垂れ壁や貫などが比較的多く入っていることもあり現状の状態でも建築基準法の耐震基準を上回る性能がありました。このままでも良いのですが、今後の設計モデルとするため、伝統建築が持つ粘りによる耐震性を損なわない金物「仕口ダンパー」を数か所設置することにしました。
※詳しくは柳屋再生記録-自主施工工事-補強金物設置でご紹介します。

外構・植栽計画
改修後配置図・外構計画図   
大きな庭を5つのエリアに分ける
500坪の大きな庭をその場所ごとの特徴を生かした5つのエリアに分けます。それぞれのエリアの特徴に合わせた植樹や外構整備を行うことで全体として美しい屋敷林を再生します。
オモテの庭
オモテの庭はまず第一に来客が目にする部分になります。敷地に入ってすぐに建物が見えないよう少し大きめのシンボルツリーを正面に配置します。そのシンボルツリーの周りには中低木の落葉樹を植えて爽やかな雑木林の散策路とします。隣地に近い南側は家庭菜園のエリアにして低木果樹や野菜などを育てたいと思います。

作業用の庭
作業用の庭は自家用車の駐車場と薪割りをする場所、そして剪定枝などを燃やす場所になります。

中高木の雑木林の庭
中高木の雑木林の庭はすでにあるクリの木をはじめとして実生の樹々が生い茂っているので少し間引きつつ管理された雑木林として整備していきます。

アプローチの庭
アプローチの庭は古民家の顔となる部分です。この庭は古民家の雰囲気に合せ、植樹はモミジを中心にナンテンやドウダンツツジなど少し和を意識したものとします。現状の舗装は土ですが、植樹するモミジの間に飛び石を配置して奥行きのあるアプローチに変えていきます。

ウラの庭
ウラの庭は日常生活を送る中での眺める庭です。もともとあるヤマザクラをはじめ、モミジやマルバノキなど個人的に眺めて楽しむ植栽を計画しています。また、石のテラスを作って良い気候の日などは外に出てくつろぐことも考えています。

全てが再生計画の通りには進んではいません。計画が実際に進むにつれてもっと良い方法が思いつけばその都度計画を見直し、この再生がより良い方向へ進むように取り組んでいます。


※詳細は写真内タイトル文字をクリックしてください